64手目 6四角打

「えっ、えっ?!角?(米長会長)」
と声が出たところ。後の梅田さん観戦記でも取り上げられている局面である。佐藤棋王の見解ではここまでの数手が既に現代棋士の感覚と違うモノらしい。
今回この部分に関してエントリを書こうと思ったときにいくつか梅田さんの過去の文章を思い出したので、色々と探したときに偶然次のエントリを見つけた。米長邦雄「人間における勝負の研究」 - My Life Between Silicon Valley and Japanこの中に引用として以下の言葉がある。「悪手でない道なら、端でも真ん中でも、どこを歩いてもよいのです。」この言葉の詳細はおくとして、日曜日午前中に偶然観たBS2で放映されていた百年インタビューの中で羽生名人が語っていた次の言葉が思い出される。「今最善と思われる手は10年後の最悪手です。」 というところが。これらを並べてみたときに、佐藤棋王が述べられている「渡辺竜王の手が最善と思われる」というところがクローズアップしてくるように思える。うがちすぎかもしれないが、これまでの最善が変化していく序章を今回目にしているのでは無かろうかという気分にさせられるのである。
今回のこの状況というのは、いわゆる都市部での情報戦で優位を確保しようとしていた渡辺竜王に対して、「細かなあやをつけることで」未開のジャングル戦に一変させた、羽生さんの大局観が優れていたという事になるのだろう。そう考えると、梅田さんの観戦記にあげられている感想戦のくだりもやや斜めから見ると「ジャングル戦なんだから最善手を探すよりも悪手でないものを打てばまた違う世界も開けたのでは?」と言った感じの問いかけにもみえてくる。
棋譜62手目のコメントとして「米長会長の予言4「でもおそらく、ここで▲4三金とは打たないでしょうね。この次の一手で、勝敗が決するだろう」」とあげられているのがすばらしいと思う。素人目では分からないが、ここの場面からならばまだ今回の様な状況にならない手を見つけられたのかもという風にみえてくる言葉である。
蛇足になるが、百年インタビューの方で、羽生さんがアクセルの踏み方に関してしゃべられていたところが印象に残ったのでうろ覚えながらまとめておく。
「ブレーキの踏み方は、経験を重ねる毎にうまくなってくる。そういう状況で何処までアクセルを踏むかが問題になってくる」
最近の羽生さんの将棋を観ていると佐藤さんがおっしゃっている「羽生さんは、ちょっと序盤で失敗したような感じも抱いているかもしれない。」と言われることが多いが、穿った見方をするとこれはここまで踏み込んだらどうなるだろうという羽生さん独特の感覚がさせている序盤なのでは無いかと思えてしまう。